新番組「相棒8」完全ファイルベース化の実現

December 25, 2009

REPORT 会田 正裕

 

今年で 8 年目に突入する「相棒」ではこれまで SD から HD に移行する大きな技術転換を経 験して来た。そしてその時以上に大きな技術的前進を今回の「相棒 8」で実現する事になった。 

  

 昨今急速に加速しつつあるファイルベース化は 2008 年の「相棒7」の撮影に向けて機材選定 を行った際大きな関心を持って実現を検討した、しかし導入に踏み切るには超えなくてはいけな いハードルがいくつもあり、その鍵は撮影よりむしろポスプロでのインフラ構築が握っていた。 

  

 そして「相棒 8」に向けてのファイルベース化に向けたプロジェクトがスタートした。当初は カメラを新機種にする事がメインテーマであり、既存の編集システムに収録のデータを読み込め る機能を追加する方法で模索していた。 

  

 今回選定したカメラはメイン機に Panasonic AJ-HPX3700G もしくは AJ-HPX3000G を採用、 P2 機のラインナップは小型カメラを含め様々な条件で大きな力となる事を確信して決定に至っ た。 

  

「相棒」を制作している東映では 2010 年にデジタルセンターの完成を控えており、サーバー による素材の一括管理を行システムが完成する予定で、ファイルベース撮影にとって大変合理化 したシステムの構築がなされる。しかし現段階ではオフラインと本編集のシステムの違いからそ れぞれデータを読み込み、更に EDL での運用になってしまう。そこでこの不合理な状況を打開 する妙案として Final Cut Pro 導入を提案した、相棒の担当エディターの只野氏は AVID をメイ ンに使用していたが、Final Cut Pro の導入に快諾していただき、同時に Apple の協力も得られ た。およそ一年越しの「相棒 8」完全ファイルベース化のプロジェクトが完成した。

 

ファイルベースワークフローの検討と構築 

  今回のワークフロー決定までの流れを振り返ってみる。シリーズとして 8 年目を迎え膨大な 収録素材が存在している、DVD 化等もあり過去素材の重要性がとても大きなコンテンツである。 昨シーズンまでは全てオリジナルのテープ素材のまま保存されているが、今回からはファイルデ ータを中長期保存する方法と活用する方法を決定する必要があった。メーカーやカメラごとに 様々な収録コーデックが存在するコーデックのカオス化の中で、当初 KiPro の導入を検討した が今回のプロジェクトには間に合わなかった。

2009.10.1収録に使用するカメラはPanasonic AJ-HPX3000Gを予定していたが、現段階ではその上位 機種 AJ-HPX3700G を使用、他の P2 機ラインナップの中からは小型機 AG-HPX175 も標準装 備として使用し予想以上の効果をもたらしている。AJ-HPX3700G と AG-HPX175 は同じ P2 カードを使用するが収録コーデックがそれぞれ異なる、事前の打ち合わせにより「相棒 8」では AVC-Intra と DVCPRO HD の二つのコーデックでの納品を許可されている。

 

  およそ半年間の撮影において予想し得るリスクに対しては徹底的に対応するように考えてい る。まだ運用実績の浅いファイルベース撮影システムにおいては、経験し得ないミスやトラブル を回避する意味と、ドラマでの収録を円滑に運ぶ事の両面から、AJ-HPM110 をベーススタイル で運用を行い二系統記録行うことにした。

 

  二系統の収録は素材を編集機に取り込む際のトラブル対応と輸送時の不慮の事態にも対応出 来る方法である、従来ならば VTR が二台必要で、テープ本数も 2 倍になる為にコストと実際の 運用面の両方で負担が大きく採用される事は無かった。撮影時の完全なるバックアップはファイ ルベース化の大きな恩恵の一つといえる、今回は AVC-Intra の同コーデックで収録しているが、 他のケースとしてはバックアップを AVCHD の小型収録機で行う等すればシステムを小型に出 来る。AJ-HPM110 をベーススタイルで運用する更なる恩恵として AG-HPX175 の使用時であ っても AVC-Intra での記録が出来る為、高ビットレートで高画質の収録が行える。例えば他の メーカーのカメラを使用する際でも収録コーデックを一元化する事で、以前のような数種類の収 録テープ混在による編集所への負担も無くなっている。

 

運用とワークフロー概要 

  AJ-HPX3700Gの導入により映像表現の差は前シリーズに比べ大きく作品に反映されている。 「相棒」ルックとして認知されているアンダートーンはロケーションの天候等条件等により露出 決定とライティングで苦労が大きかった、AJ-HPX3700G の広いラチチュードによりハイライ ト側の再現性が大幅に拡張した、例えば曇り空を背景にした人物などのようにライティングを感 じさせたくない時等、ソフトな光質でも十分効力を発揮出来る為、自然なライティングを作り出 す為の効率化がはかれている。AG-HPX175 も多くの局面で使用している、特性を生かした撮影 を行えば良好な結果が得られると再確認した。 

  

 収録方法は「ファイルベースワークフローの検討と構築」でもふれた通り二系統の収録を行っ ている、AJ-HPM110 で収録されたクリップは VE によるチェックを行い編集所へ送られる、一 方 AJ-HPX3700G など P2 機は全てカムコーダーであるので、カメラ本体での撮影を行った素 材は AG-HPG20 を用いポータブル HDD に保存している。この恩恵の副産物として撮影中の作 品の全素材を現場でいつでも見られる環境が得られた、映像的なつながりの確認等に特に効果を発揮している、ファイルベース化に伴う恩恵を素直に受け入れ運用する事で、効率化とクオリテ ィーのアップにもつながっている。一時間の作品一本あたりの収録データ容量は 300GB を目安 としているのでポータブル HDD でも十分である、AG-HPX20 からのコピーは移動中や撮影の 合間で行うことができる為効率が良く撮影終了後の作業時間を大幅に短縮出来る。このポータブ ル HDD は本編完了と共にフォーマットして運用している。

 

  今回のワークフローの中で使用する P2 カードは 32GB タイプを 20 枚である、当初は撮影後 に HDD へのコピーを行い編集所に入れる方法案で少ないカード枚数での運用も検討したが、撮 影部の負担の増加とコピー時のリスク面からもテープの運用時と同等の収録分数のカードを用 いる事が最善と判断した。現在 P2 カードは 64GB 収録のタイプもあるが、ドラマでの一日の収 録時間が 30 分を超える事が少ない事や、小分けにする事でのリスクの軽減等、複数の要素から 32GB のタイプを採用した。

 

  多量のカード使用には初期段階での導入コストはかかるが 2 クールの中で平均して考えれば コスト面の問題は軽減される。さらに長期的に考えればコストダウン且つエコロジーな撮影方法 であると言える。 

  

「相棒」での収録素材は再編集を含め様々な運用が行われるため、その最終保管は確実に行わ れる必要がある、よく使われると思われる、空撮や実景等の素材は編集所のサーバーに配置する 事で効率が上がる。そしてオリジナルの素材保管に関しては、HDD などの物理的故障のリスク 等が無く、且つ安定した大容量のメディアにアーカイブする方法が現段階ではベストと考え、ブ ルーレイに 50G 単位でアーカイブしている。32GB のカードを 25GB 平均で切り上げて使用す る事でアーカイブ作業時の素材整理の負担を軽減している。

 

  Final Cut Pro の導入は作品のクオリティーアップに大きな貢献をもたらす結果となった、オ フラインから本編集に移行する過程で大きな効率化が図られ、今まで本編集の準備に当てていた 時間をカラコレに使うことができる。これは作品のクオリティーを大きく前進さた。またソフ トが安価なため筆者の自宅環境や現場のラップトップにおいても編集室と全く同じソフトを運 用出来る、後はキャリブレーションされたモニター環境があればどの段階でもカラコレの検討が 可能であり、場合によっては撮影時に監督や照明技師と仕上がりに関する打ち合わせも出来る。 シビアなトーンを求めて来た「相棒」ルックを更に向上させるには、カラコレがしやすい素材を 撮影する事が有効である事は承知していたが、編集スジュールの中で実現出来ないのが実情だ った。Final Cut Pro の導入で編集室のハイパワーなシステムに頼らずとも事前作業が出来る事 や、編集室の使用時間(コスト)のプレッシャーから解放される事が最大のメリットと言える。 さらにソフトを理解する事でカラリストとの共通言語がふくらみ完成までの時間短縮も大幅に 進んでいる。

 

  リーマンショックからの一連の不況により局からの制作予算は削減傾向にある、貴重な予算をどう運用するかは大きな課題となった。Final Cut Pro 選択する事で編集予算を箱(編集室)で はなく、人(エディターやカラリスト)に使う事で、コストを抑えながらも作業時間を増やすと いう選択肢が得られるようになった事の意義は大きい。来年完成のデジタルセンターでは更なる 効率化がはかられカラコレ作業などの作業が小規模で運用出来る環境も整うと思われる、同時に 従来通りのハイパワーなリアルタイムの作業が行えるシステムとの連携で時間と予算のバラン スにあわせ最善の選択が出来る環境が整うとおもわれる。

 

まとめ 

  現在 1 話スペシャル(2 時間)を含め 5 本の作品がこのシステムで誕生している、カメラの スペックアップと編集環境の変化はオンエアーの時にはっきりと表れると確信している。 

  映画等のようにカラコレに使う時間と予算が計上された作品と、今までのドラマの仕上げ環境 のギャップは大きい。しかし今後予算と時間がドラマの仕上げに与えられるとはかんがえにくい。 ファイルベースの撮影と Final Cut Pro のようなシステムの出現によりアメリカやイギリスの ようにカラリスト等の人的な要素に予算を配分出来る環境が構築されてゆく事が予想される。今 回のプロジェクトは更なる映像表現の広がりを求める次世代への一歩と感じている。

 

システム協力 Panasonic

編集用ストレージ協力 ヤノ電器株式会社

機材協力 テックス

 

 

 

 

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